【オリジナルストーリー】ボンボヤージュ3/4

オリジナル長編物語

「翡翠の隠れ家」を運営するたーです。

新プロジェクトとして、コーヒーを飲みながら気軽に読めるオリジナルストーリーをスタートさせています。いままで投稿した物語は全て1話読み切りのものでしたが、おかげさまで反響がよかったので少し長めの物語を考えてみました。

今回は(ボンボヤージュ)の第三話です。

ボンボヤージュ

前進と証

修平はその後、カフェ「翡翠の隠れ家」を後にし、街を歩きながらふと立ち止まることが増えた。いつもなら、ただ足早に通り過ぎるだけの景色が、まるで初めて見るように感じられた。彼の中で何かが変わり始めていた。

「自分の未来を切り開く力がある。」その言葉が、何度も心の中で反響していた。未来の自分から教えられたように、もう一度自分の人生を見つめ直す時間が必要だと感じていた。それは、大きな変化を求めるものではなかった。ただ、日々の暮らしの中で少しだけ「今」を感じることだった。

仕事に戻った修平は、以前のようにただ「こなす」ことを求められる日々ではなくなった。毎朝、電車に揺られながら会社へ向かう途中、修平は自分に問いかけた。「今日一日、自分らしくいられるだろうか?」その問いが、彼の心の中に小さな火を灯すようになった。

会議中、ふとした瞬間に意見を述べることができた自分に驚いた。それまでは、ただ上司や同僚の話を聞いて、指示されたことを無難にこなすだけだった。しかし、その日は違った。自分がどれだけその仕事に情熱を持てるかを考え、言葉にしてみた。

「次に進むためには、少しだけ違うアプローチをしてみたいと思います。」その言葉は、周囲の目を引いた。修平はそれが自分のためになることを知っていた。何も変わらない日常の中でも、少しずつでも前向きに進んでいくことができる。その小さな一歩が、彼の心の中で大きな意味を持っていた。

そして、毎日の帰り道。以前はただ流れるように家路を急いでいたが、今では少しだけ道を変えてみたり、気になるカフェに立ち寄ったりするようになった。毎日のランチタイムには、同僚たちと過ごす時間を大切にするようになり、無理にでも笑顔を作り、会話を楽しんだ。彼が仕事に戻った理由や、最近見た映画の話、そして最近気になっている趣味についてなど、心から楽しむ時間を大切にしていった。

仕事が終わった後、修平はジムに通い始めた。体を動かすことで、心も前向きになれることに気づいたからだ。以前は疲れて帰宅するだけだったが、今では少しだけでも自分のために時間を使うことが心地よくなった。汗をかきながらトレーニングを続けるうちに、体だけでなく心も解放される感覚を味わった。

修平は、以前のように無感動にこなしていた毎日が少しずつ色づいていくのを感じた。どこにでもいる真面目なサラリーマンだった自分が、少しずつでも自分らしさを取り戻し始めた。そして、その変化を小さなことから始めた自分に、ひとり満足していた。

カフェ「翡翠の隠れ家」で見た未来の自分。その人が語った言葉が、今の修平にはとても意味深く響いていた。今の自分が少しずつ変わることで、未来の自分が描いたような「本当の自分」に近づいていけるような気がしていた。

休日、修平は久しぶりに自然の中を歩くことにした。緑の匂い、風の音、鳥のさえずり。何も考えずにただその空間に身を任せて歩くことで、彼は改めて心の中で感じたことがあった。自分の人生を、もっと自由に生きていいんだ。何か特別なことを成し遂げる必要なんてない。ほんの少しの自由が、修平にとっては十分だった。

修平は心の中で、確かに思った。「俺は、これからどうなりたいのか。」その問いに、彼は自信を持って答えられるようになった。自分を無理に押し込める必要はなく、少しずつでも変わりたい自分を大切にしていけばいい。それが、修平が未来を選ぶ力を持っていることの証だった。

未来の自分は、何も言わずにただ微笑んでいる。修平はその微笑みを胸に、今日も一歩前へと進んでいく。

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