【オリジナルストーリー】ボンボヤージュ2/4

オリジナル長編物語

「翡翠の隠れ家」を運営するたーです。

新プロジェクトとして、コーヒーを飲みながら気軽に読めるオリジナルストーリーをスタートさせています。いままで投稿した物語は全て1話読み切りのものでしたが、おかげさまで反響がよかったので少し長めの物語を考えてみました。

今回は(ボンボヤージュ)第二話です。

ボンボヤージュ

気付き


修平はその後、店主に何気なく尋ねてみた。

「先程の男性、常連さんですか?」

店主は穏やかな表情のまま、少し考えた後に答えた。

「いえ、常連というわけではありません。ただ、少し特別な方ですね。」

修平はその言葉に引っかかりを感じたが、深くは尋ねなかった。彼の胸の中で、先程見た男性に対する疑念が強くなっていった。しかし、それでも答えを探し求める気持ちが湧かなかった。

そのまま修平はコーヒーを飲み続け、店内の静けさに身を委ねた。ふと、店の奥にある小さな棚に目を向けると、手書きの小さなメモが置かれていることに気づいた。そこには「未来を見てみる?」とだけ書かれていた。

修平は一瞬そのメモを見つめ、そして何も考えずに手に取った。それを見た店主は、ただ静かに微笑んだ。

「興味があれば、その言葉に従ってみるといい。」

「このメモを頂いても?」

「もちろん。お好きなように」店主は落ち着いた笑顔で答えた。

修平は何か不思議な気持ちに駆られながら、そのメモをポケットにしまった。今すぐに答えを出すつもりはなかったが、何か心の中で引っかかるものがあった。

その後、修平は再び店主に聞いてみた。

「もし、未来のことが見れるとしたら、それはどういうことなんでしょうか?」

店主は少し黙ってから、ゆっくりと口を開いた。

「未来を見るというのは、ただの予知ではないんですよ。自分がどんな人間になりたかったか、どんな道を選びたかったのか。それがわかることです。」

修平はその言葉に胸が震えるような感覚を覚えた。自分はただ、毎日決められたことをこなしてきた。そんな中で、今、未来について考える余裕を持っている自分に驚いた。普段なら、仕事に追われていたはずの時間が、今は不思議なほどに大切に感じられた。

しばらくその場に静かに座っていた修平は、ようやく決心したように立ち上がり、店主に言った。

「少し、試してみます。」

店主は静かに頷き、修平が席を立つのを見守った。その瞬間、修平の目の前に、あの男性が再び現れた。今度は、静かに修平に歩み寄り、低い声でこう言った。

「君は、まだ本当に気づいていないんだね。」

その言葉に、修平は驚き、そして一瞬、自分の胸の奥がざわついた。しかし、言葉にすることはできなかった。男性はただ微笑んで、再び去って行った。

修平はその後、店主の勧めに従って、店の奥の小さな部屋へと案内された。その部屋には、暗い部屋の中にただ一つの椅子があり、その椅子に座るように言われた。

椅子に座った瞬間、修平は不思議な感覚に包まれた。時間が止まったように感じ、次の瞬間、彼は目を開けると、目の前に一人の男性が立っていた。それは、間違いなくあの男性だ。

「君はもう気づいたはずだ。」

その男性は、修平に向かって微笑んで言った。

「私は、未来の君だ。」

その瞬間、修平は言葉にできない衝撃を受けた。目の前にいる男性が、未来の自分であることを実感した。

未来の自分は、ただ静かに微笑みながら言った。

「今、君がここに来たのは偶然じゃない。君が少しでも自由を感じたかったから、君がその道を開いてあげたんだ。」

その言葉を聞いて、修平は自分の中で何かが大きく変わったような気がした。普段の生活に閉じ込められていた自分が、少しだけ自由になれた気がした。そして、彼は思った。

「未来の僕は、どうなっているんでしょうか?」

未来の自分は、ゆっくりと修平に近づいて言った。

「君の未来は、君が選ぶものだ。」

その言葉を聞いた瞬間、修平は深くうなずいた。そして彼は気づいた。ただのサラリーマンではなく、自分の人生を切り開く力を持っていることに気づいた。そして、再びその場所に座ることに決めた。

未来の自分は静かに微笑みながら、店主に向かって言った。

「ありがとう。」

修平が立ち上がり、店を後にするとき、彼はもう一度振り返った。カフェ「翡翠の隠れ家」は、ただのカフェではなく、彼にとっての未来の扉だった。

「よし、すこし頑張ってみるか!」

修平の目に光が宿った。扉の向こうで微笑む店主と未来の自分が見えた気がした。

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