【短編オリジナルストーリー】再会

オリジナル短編物語

おはようございます。「翡翠の隠れ家」を運営するたーです。

短編ストーリー第2話です。最後までお楽しみください。

再会

私は、27歳になった。仕事に追われ、気がつけばカフェにも足を運ばなくなっていた。いつの間にか、昔の自分を忘れ、目の前の仕事だけをこなす日々。

そんな私が、ある日ふと足を踏み入れたのは、街の片隅にある「翡翠の隠れ家」という小さなカフェだった。普段は行かないけれど、何か引き寄せられるような気がして、無意識に店のドアを開けた。

店内は、木のぬくもりと心地よいコーヒーの香りに包まれていた。何か、穏やかな時間が流れている感じがして、思わず深呼吸した。その時だった。背後から聞き覚えのある声が、私を呼んだ。

「架乃…?」
その声を聞いた瞬間、胸が震えた。振り返ると、目の前にいたのは、10年ぶりに会う、元カレの涼介だった。あの頃、あんなに一緒に過ごしていた彼の顔が、今は少し大人びて、でも確かにあの涼介だった。

「まさか、架乃がここにいるなんて…」涼介が驚いたように呟いた。私も同じだった。思わず目が潤んでしまいそうになったけれど、必死にそれをこらえた。

「涼介…どうしてここに?」
「ふと思い立って来てみたんだ。」

お互い、言葉に詰まってしまった。10年前、私たちは理由もなく別れた。その時は、ただ感情がうまく伝えられなかっただけだったと思うけれど、あの別れはお互いに深く傷を残していた。


私たちは、意外にも自然にカウンター席に座った。最初はぎこちなくて、言葉も少なかったけれど、少しずつお互いのことを話し始めた。涼介は医者として忙しく働いていること、私はデザインの仕事をしていることを語り合った。

「元気そうだね。」涼介が言うと、私は少し笑って答えた。
「うん、なんとか。でも、たまに疲れちゃう。」
「わかるよ、俺も最近は忙しくて。」

その時、彼の目が少し遠くを見つめるような表情に変わった。その視線が、どこか痛みを感じさせた。

「架乃…あの時、どうして別れたんだろうね。」涼介が突然言った。その言葉に、私の胸が痛んだ。彼もまた、あの時のことをずっと引きずっていたのだろうか。私はただ、黙って彼を見つめることしかできなかった。

「私も、ずっと考えてた。でも、あの時はお互いにどうしていいかわからなかったよね。」
涼介は、少し目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。「俺、あの別れ方をずっと後悔してた。架乃にうまく伝えられなかった気持ちがあったんだ。」

その言葉に、私はもう、堪えきれずに涙がこぼれそうになった。あの時、彼も私と同じように、何も言わずに去ってしまった。お互いが痛みを抱えたまま、時間だけが過ぎていった。


しばらくの間、無言でコーヒーを飲んでいた。お互い、言葉を見つけられないまま、時間が過ぎていった。涼介がまた口を開いた時、私は彼の目をしっかりと見つめた。

「架乃…実は、ずっと伝えたかったことがあるんだ。」
「伝えたかったこと?」
「うん。」涼介が少しだけ視線を逸らして言った。「あの時、君に言いたかった。でも言えなかった。俺、君を傷つけたくなくて、ただ離れてしまった。でも、本当はずっと…」
彼の声が震えていることに気づいた。涼介の瞳が涙で潤んでいるように見えた。私もまた、同じように涙がこぼれそうになった。

「君を、ずっと大切に思ってた。」涼介が言ったその瞬間、私の心の奥にしまい込んでいた感情が、すべて一気に溢れ出した。私もまた、彼を大切に思っていたのだ。

「涼介…私も。」
私は涙をぬぐいながら言った。「でも、あの時は私も不安だった。私たち、どうしてもお互いに言葉を交わせなかった。だから、離れるしかなかった。」

その言葉を聞いた涼介は、しばらく黙っていたが、やがて静かに言った。「でも、今こうして再会できたこと、運命だと思わないか?」
その言葉に、私は胸が熱くなった。過去の苦しみも、すべて意味があったのかもしれないと思えた。


少しの沈黙の後、涼介が私を見つめながら言った。「架乃、もし、もう一度…一緒に歩んでいくことができたら、どうする?」
その言葉に、私の心は震えた。10年前にはできなかった、今だからこそ言える言葉が、私の胸の中で響いた。

「涼介、私…もう一度、やり直せるなら、ちゃんと向き合いたい。」
私がそう言った瞬間、涼介の顔に一筋の涙が流れた。お互いに、過去の傷を癒し合い、もう一度前に進むことを決意した。

私たちは、再び一緒に歩むことを選んだ。それは、過去の痛みを抱えたままで、でも、今はもうその痛みを共に乗り越えていけると信じて。涼介と再会したことで、私はもう過去を引きずらず、未来に向かって歩き出すことができると感じた。

そして、あのカフェで過ごした時間は、二人にとって、新しい一歩を踏み出すための大切な瞬間となった。

おしまい

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