【オリジナルストーリー】ボンボヤージュ1/4

オリジナル長編物語

「翡翠の隠れ家」を運営するたーです。

新プロジェクトとして、コーヒーを飲みながら気軽に読めるオリジナルストーリーをスタートさせています。いままで投稿した物語は全て1話読み切りのものでしたが、おかげさまで反響がよかったので少し長めの物語を考えてみました。

この物語(ボンボヤージュ)は毎週日曜日の21時に公開していく予定です。お楽しみください。

ボンボヤージュ

いつもとは違う選択-そして出会い-


田中修平は、いつものように仕事に追われる日々を送っていた。営業職の彼は、社内で決められたスケジュールに従い、顧客との会議や報告書の作成に明け暮れていた。どこにでもいる、平凡なサラリーマン。決して特別なことはなかった。だが、最近、彼の中で少しだけ違和感が芽生えていた。毎日同じことを繰り返す生活に、何か物足りなさを感じ始めたのだ。

ある日、出張のために地方へ向かうことになった修平はだが、取引先との会議が急遽キャンセルとなり、予定していた時間が空いてしまった。そんななかで彼は思い立った。会社に戻る前に少しだけ寄り道をしたいという衝動に駆られた。普段なら、そんなことはあり得なかった。何かを変えたくて、何かを感じたくて、修平は迷わず道をそれた。

「少しだけ自由になってみたかった。」

その思いを胸に、修平は街の片隅にひっそりと佇むカフェ「翡翠の隠れ家」に足を踏み入れた。外観は古びた一軒家で、まるで誰かの家のような温かみがあった。ドアを開けると、静かな空間が広がっていた。無駄な装飾はなく、落ち着いた雰囲気が漂っていた。店のなかには客が数人。物思いにふける年配の男性客1人、女性客が1人ノートに何かを書きながら静かにコーヒーを飲んでいた。

「いらっしゃいませ。」

店のカウンターから店主は優しい笑顔で修平を迎えてくれた。年齢は50代後半だろうか。目を細めて、穏やかな声で話す店主に、修平はどこか安心感を覚えた。店内には他に客はおらず、修平は一番奥のテーブルに腰を下ろすことにした。

「今日は何をお飲みになりますか?」

店主が尋ねると、修平は少し考えてから答えた。

「コーヒーをお願いします。」

店主は微笑みながら頷き、コーヒーを淹れ始めた。修平は、普段なら急いで仕事に戻ることを考えていたが、今日は不思議とその場で時間がゆっくりと流れているように感じられた。店内に漂うコーヒーの香り、木のぬくもり、そしてどこか懐かしい空気感。それは、彼が普段の忙しさから忘れていた、心の休息のようだった。

店主が運んできたコーヒーを一口飲んだ瞬間、修平は驚いた。その味わいは、まるで普段飲んでいるものとは違った。苦みと酸味が絶妙に調和し、まろやかな甘さが口の中に広がった。それは、まさに心を解放するような味わいだった。

「おいしいですね。」

思わず言葉が漏れた。店主はただ微笑んだまま、修平を見つめている。

「このコーヒーには、少し特別な意味があります。」

店主は静かに言った。修平はその言葉に何か引っかかるものを感じたが、何も言わずにコーヒーを飲み続けた。店内にはただ静かな時間が流れ、修平はどこか安心した気持ちになっていた。その時、ふと気づくと、店内の一角に座っている男性が目に入った。

その男性は修平と同じ年齢くらいで、少し疲れた様子で本を読んでいた。しかし、何かが違った。修平はその男性に引き寄せられるように目を向けた。なぜかその男性が、どこか懐かしい気がしたのだ。

男性は本を閉じ、修平に向かって軽く会釈をした。修平は驚いたが、何も言わずにそのまま視線を交わすだけだった。

男性は立ち上がり、店主に向かって言った。

「今日は、久しぶりに来れてよかった。」

店主は微笑んで答えた。

「お帰りなさい。いつでもいらしてください。」

そのやり取りに、修平は少し不思議な感覚を覚えた。だが、それ以上にその男性がどこか知っているような気がした。それはただの勘だと思いながらも、修平はしばらくその男性を見つめていた。

その後、男性は静かにカフェを後にした。修平は何かを感じたが、それが何なのかをはっきりとはわからなかった。少ししてから、修平はふと思い立った。あの男性、もしかして…?

part2に続く…

コメント

タイトルとURLをコピーしました